「一人ひとりが好きなことを中心に、会社をつくる」地元経営者たちと共に、子ども達がどんどん思考を働かせる
柏崎市内の小中学校では地域や学校の特色を生かした総合学習に取り組んでいます。 ここでしか得られない体験、そして自分たちで考え行動する力を養い、子どもたちの成長へと繋げています。 |
柏崎市立第三中学校では、2学年の総合学習で地元の若い経営者たちと共に「子ども達が社長になって、柏崎を盛り上げる」という夢の舞台をつくりました。自分の好きなことを出発点に、地域の困りごとを掛け合わせ、地域を盛り上げるにはどうしたらいいか、大人の想像を超えて追求する子ども達の姿がありました。「まずは挑戦してみる、そしてみんなで知恵を集めて創り上げる」そんな子ども達の主体性を育む教育現場をご紹介します。
会社をつくろう、20社の社長と社員たち
第三中学校では「私の生き方〜マイドリーム&マイプラン〜ふるさと柏崎との関わりを深めながら、自己を見つめ、自らの生き方を考える」を軸に総合学習の時間をつくっています。 2022年度の2学年では、地元の若い経営者たちが中心となった起業学習Change Maker「理想の会社をつくる」が行われました。まずは「会社ってどんなイメージ?」をテーマに経営者たちのトークセッションが開かれ、子ども達は働くことの意味を考えました。「人生グラフをつくる」場面では自分の好きなこと、身の回りの問題や違和感を振り返り、起業のタネを見つけることから会社づくりが始まりました。
当時授業を担当された前澤明里先生にお話を伺いました。
「会社をつくるという大きなテーマで探求活動をできたことが一番良かったです。ビジョン・ミッション・ターゲットという思考の流れや予算など、専門的に考えるべきところを教えてもらいました。メンター(経営者)から”突っ込み”をいただきながら考え抜くということができ、ダイナミックな活動になったと思います。」 2学年は2クラス75人。興味のある分野や活用したい資源からグループを分け、20人の社長と社員たちによる全20社が立ち上がったのです。
”好き”なものへのエネルギーから、チームでより良いものをつくる
会社を立ち上げていく中で印象的だった出来事があったそうです。 「社員たちは好きなことや興味が共通しているから、好きなことをエネルギーにして本気で考えている姿がありました。例えば「よみたいヨネ」会社は、本が好きな子たちの会話から事業が生まれていたのですごく素敵だなと思いました。また、アニメ会社を作りたい「アニラブ」会社は、世間一般ではネガティブに捉えられがちな”オタク”を活かそうと面白く活動していましたね。」そこには生徒たちの”好き”なものに対するエネルギー溢れる会社がいくつも生まれていたのです。
実際、子ども達にとってプランや予算を考えることは難しかったのですが、最後のプレゼン大会に向けて持ち前の素直さ、前向きな姿勢でその壁を乗り越えていきました。
「今はタブレットを使って情報を集めることはできますが、自分たちが立てたプランを本当に良いものにするためには”深める作業”が必要。メンターからの色々な角度の助言をもとに、一度出来たプランを”練り直す”こと自体が子ども達にとっては初挑戦でした。」 続けて、「話し合いは苦手だけど計算は得意という子が会計を任されるなど、得意なことを任されることで前向きになるきっかけを会社の中で作っていましたね。」と、そこには誰か一人が頑張るのではなく、誰も取り残さずにチームとして取り組む姿がありました。
プレゼン大会と子どもたちの変化
起業学習の集大成となるプレゼン大会。保護者の方も足を運びました。最優秀賞に選ばれた「ファミリー食堂」会社は、幅広い年齢の人に愛され、健康的な食事が出来る柏崎を目指す会社でした。子ども食堂のような活動をやろうという方向で、ビジョン・ミッション・ターゲットの内容がきちんと繋がっていることで高評価されたそうです。前澤先生にプレゼン大会を終えたあとの心境を伺いました。 「子ども達は苦しみながらも形にしていきました。本当に最後のまとめができるかなと思いましたが、子ども達が自主的に自宅で調べてきたり、凝ったデザインの会社マークを作ったりする姿に感動しました。子どものもつ力でどうにかしようと食らいつく気持ちが、それぞれが動く力になったんだと思います。」
約半年間におよぶ起業学習を終えた子どもたち。学校生活での変化も見えてきました。 「普段からリーダー的な子たちは、生徒会活動の中で『学校に消極的な生徒のために、こういうことがしたい』など、起業学習で学んだ思考を使って物事を考えられるようになっていました。また、社長になるという夢のある活動に向かって、楽しくわいわいと話し合った思い出や自分の意見が活かされた経験が、子どもたちの自信に繋がっていき、友達と繋がりを深めた子たちもいました。」
人生すべてが挑戦、これからの社会で生きる学びを
前澤先生は「人生すべてが挑戦」と語り、今回の授業のように新しく自分の引き出しを増やすことで、子ども達に様々な方法での学びを提供したいと考えています。総合学習においては大事にしていることがありました。 「まずは挑戦してみる。会社をつくるためには何が必要か、みんなで知恵を集めて提案を作り上げ、どう実現するか追求し尽くすという経験を大事にしたいと思いました。この授業は学校の先生だけではすごく難しい。だからこそ、外部の力を借りてどこまで深められるか、私の中でも挑戦でした。」
最後に、これから社会へと飛び立っていく子どもたちへの思いを伺いました。 「これからはペーパーの点数だけが大切なわけではないと思います。偏差値が高い学校を目指す子たちもいる一方で、企業で自分のやるべきことをやっていくという子もたくさんいます。これから社会に出て、やっていて良かったなと思える“生きる学び”をつくりたいと常に思っています。」
第三中学校には「まずは挑戦してみる、そしてみんなで知恵を集めて創り上げる」そんな子どもたちの挑戦を見守り、主体性を育む教育がありました。柏崎市は海・町・山エリアがあるなかで、それぞれの地域の特色に合わせた総合的な学習が展開されています。ほかの学校の取り組みもぜひご覧ください。
取材執筆=柏崎市移住・定住推進パートナーチーム
- 【学校情報】
- 柏崎市立第三中学校
- 新潟県柏崎市新赤坂1丁目2−10
- 校訓「三中魂 ~挑戦・忍耐・協力~ 」
- 教育目標「豊かな心をもって 自ら学び鍛える生徒」
- 全校生徒数 230人(2024年4月1日現在)
- ホームページ(https://www.kenet.ed.jp/daisan/)
*この記事は2022年度に取り組まれた総合学習の内容になります。