海の小学生が山の営みから得たもの~1年間の矢田集落での体験活動~
柏崎市内の小中学校では地域や学校の特色を生かした総合学習に取り組んでいます。 ここでしか得られない体験、そして自分たちで考え行動する力を養い、子どもたちの成長へと繋げています。 |
グラウンドに出れば潮の香りがして、目の前に広がる松林の向こう側は日本海。特に、夕焼け空から海へとつながるグラデーションの美しいこと。このような環境で、柏崎市立荒浜小学校の181名の児童は学校生活を送っています。
2023年4月、上越市の小学校から荒浜小学校へと異動してきた岩﨑裕先生。「初めて出会う子どもたちと、初めての場所で、総合学習で“わくわくどきどき”楽しいことや嬉しいことを一緒につくりたい。」そう思い、真っ先に柏崎市のフィールドワークに出かけます。
岩﨑先生が1年間に渡り、2023年度4年生の子どもたちと築いた総合学習とはどのようなものだったのでしょうか。
海から里山へ、柏崎の魅力探し
「考え込むよりも先に、僕、動いちゃうので。」と話す岩﨑先生。妙高市出身で、福井県の大学に進学した岩﨑先生が抱く柏崎市のイメージは「海」でした。本当に海だけなのだろうか、もっと多くの魅力があるのではないかと、柏崎市内を巡ります。
岩﨑先生を突き動かしたのは、“自分自身の興味や好き”と、「4年生の子どもたちが、同じ柏崎市の様々な社会の広がりを見ることによって、柏崎市をもっと大好きになってほしい」という熱い思いでした。 フィールドワークを続ける中で、中通地区矢田集落の方々と出会います。矢田集落は柏崎市の市街地から東の山間地へ進んだところにあります。のどかな田園風景に囲まれた集落です。
総合学習のテーマ「矢田集落 ~巡る つくる つながる~ 」
子どもたちの願いや思いを大切にしながら、矢田集落の営みに入り込んでいくことを意識した学習活動計画が構築されていきました。「当時矢田集落の地域おこし協力隊をされていた山田華緒李さんと出会って、町内会長さんたちと一緒に何度も色々とお話をしました。先生、これはおもしろそう、やってみようか、それはちょっと厳しいかな、頑張ってみるか、とか。」
春はじゃがいもと枝豆を植えたり、集落の奥にある田んぼで水遊びをしたり、植物で遊んだり、森の散策をしたりしました。夏から秋にかけては、大根の種を植えたり、集落の方から矢田の昔話を聞いたり、様々な自然等体験活動をしました。また、敬老の日に向けて、交流を深めた矢田集落の方への千羽鶴作りも始めます。
このように活動を続けていく中で事件も起こります。子どもたちが矢田集落の方と大切に育ててきた枝豆が猛暑で枯れてしまったのです。
矢田集落の営みの中で育まれたこと
当然ながら、あれだけ通って水やりや草取りをしたのに、と怒る子もいたし、しょぼんと落ち込む子もいたそうです。
「ただし誰1人として、無駄とか、もうやりたくないっていう子がいなかったんですよ。むしろ、『地域のおばあちゃんたちが暑い中でお世話をしてくださってありがたかった』という感謝の言葉が出たり、『やっぱり自然の厳しさも、こういうことをやってみなきゃ分からない』と話す子がいたり。」と、岩﨑先生は振り返ります。最終的には、みんなで選別し、「きっとこれは食べられないな」と内心思いつつも1人3、4粒を大切に家へ持ち帰ったそうです。
「枝豆事件」から3か月後、リベンジをしたいと雨の日も草刈りを頑張り、手間暇かけた大根はすくすく成長。220本の大収穫に、子どもたちは大喜び。
矢田集落での活動の思い出を残そうと、子どもたちと相談して藍染の手ぬぐいを作りました。「いつか大人になったときにこの手ぬぐいを見て、あそこに行ったなぁと思いを巡らせることができるのでは。」と、岩﨑先生は言います。
外で作業をした日は雨模様でしたが、完成した手ぬぐいを見て「すごい、神秘的な青空だ。これは忘れない。」と呟いた子がいました。雲が晴れて、光が差し込んだ瞬間でした。
冬を迎え、駒づくりの体験などを行いながら、3月の学習報告会の準備も行われました。
社会の広がりを見た子どもたちに芽生えた意識の変化
岩﨑先生は毎週、学年だよりを書くそうです。子どもたちは振り返り作文を書いたり、新聞づくりをしたりすることで、書き残すことを大切にしています。岩﨑先生自身、書くことは試行錯誤の連続で楽なことではないと話す中、子どもたちが矢田集落での活動を振り返り、手が真っ黒になるまで書き続ける姿に感心したそうです。
「社会の広がりというか、校区を出て活動して、その地域の文化や生業、営みを体感した先に、自分たちの地域をどうみるか。一人一人の中に残った『大切な何か』が『確かなこと』となり、これからもきっとずっと、その子の中に刻まれ続けていくはずです。」矢田集落での達人たちとの活動を通して、自分のこれまでの生き方や、これからの生き方について考えをつくるとともに、ふるさとを大好きになってもらうことも、今、岩﨑先生が考える総合学習で大切にしていることです。
子どもたちは自らの言葉で表現します。
「もしかしたら、このまま本当に人がいなくなって、地域がなくなっちゃうんじゃないか。自分たちに何ができるのだろう。」と、担い手としての視点で危惧する言葉を書いた子もいました。
「どっちの方が大事ではなくて、どちらも僕の中での同じふるさと」と、保護者の前で発表した子もいました。
「もっと一緒に交流したいし、 もっと一緒に繋がっていきたい。一緒になれば、もっといいものがつくれる。」
子どもたちは1年間の総合学習を通して、クラスの仲間と矢田集落の達人たちと「巡り、つくり、つながる」ことで、柏崎という地域の中に区分けはないことに気づき、一緒に地域をつくることを意識し始めました。
取材執筆=柏崎市移住・定住推進パートナーチーム
- 【学校情報】
- 柏崎市立荒浜小学校
- 新潟県柏崎市荒浜1丁目2−11
- 教育目標「学ぶ子 高まる子 きたえる子」
- 全校生徒数 181人(2024年9月現在)
- ホームページ(https://www.kenet.ed.jp/arahama/)
*この記事は2023年度に取り組まれた総合学習の内容になります。